はじめに
現代の企業において、業務のクラウド化・多様化、そしてAIによる高度化が進む中、複数のSAP製品を横断して利用するケースが増えています。こうした環境では、ユーザーごとの一貫したID管理が求められ、複数のシステム間で同一人物を正確に識別し、適切な認証・権限付与を行うことが重要になります。まさにSAPのAIデジタルアシスタントのJouleやSAP Task Centerも対象の一つです。
本ガイドでは、SAPのクラウド基盤であるSAP Cloud Identity Servicesの重要な一機能である「グローバルユーザーID」の役割と仕組みに加え、その実装を支えるSAP Cloud Identity Services – Identity Authentication(SAP IAS)の設定方法について解説します。特に、SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANAといった主要なSAP製品との連携において、ユーザー情報の統合とシングルサインオンの実現をどのように行うかに焦点を当て、実践的なステップや注意点を紹介します。
1. グローバルユーザーIDとは何か
グローバルユーザーIDとは、SAPが提供する各種ビジネスアプリケーションやサービスを含む広範なランドスケープの中で、特定のユーザーを一意に識別するための共通IDのことを意味します。*1
このグローバルユーザーIDを持たないシステム構成では、システムAからシステムBにアクセスする際に、それぞれのシステムでのどのユーザーがどのユーザーと同じ人物であるのかを認識するために、それ相応の処理を実装する必要がありました。
しかしグローバルユーザーIDという概念と実装を導入することにより、こうした煩雑なIDマッピングに必要性を解消できます。技術的にはUUID(Universally Unique Identifier)/ GUID (Global Unique Identifier)形式で生成される識別子であり、例えばSAP Cloud Identity Services, Identity Authentication(通称SAP IAS、以下SAP IASとして言及します) 上でユーザーが作成される際に自動的に割り当てられます。
このグローバルユーザーIDは「関連付け属性 (correlation attribute)」として機能し、複数のシステムに存在するユーザーアカウント同士を裏側で紐付ける役割を果たします。
例えば、ある従業員がSAP SuccessFactorsとSAP S/4HANAの両方にユーザーアカウントを持つ場合、グローバルユーザーIDによってその人物であることが一意に結び付けられます。これにより、直接的にやり取りを行うシステムにとどまらず、その他のシステムも、特定の処理が同じユーザーに関連して行われていることを相互に認識でき、ユーザー情報やタスクの統合参照が可能となります。グローバルユーザーIDはあくまで内部的なIDであり、エンドユーザーがログイン時に入力するユーザー名やメールアドレスとは別物ですが、システム連携の中核となる重要な要素です。
2. なぜ今、グローバルユーザーIDが必要なのか?
現代のSAPを取り巻く環境では、複数のクラウドサービスやオンプレミスシステムを統合し、ユーザーにシームレスな体験を提供することが求められています。しかし各システムでユーザーIDがばらばらな状態では、ユーザーごとにデータやタスクを統合する際に対応関係を取ることが非常に困難となります。そこで、グローバルユーザーIDという単一の識別子を導入して効果的に利用することで、システム境界を越えたユーザー関連データの統合という課題に対処し、企業全体で一貫したユーザー識別を実現することができるのです。結果として、一度の認証で複数のSAPサービスにアクセスできるシングルサインオン (SSO) や、一貫した権限管理が可能となります。
具体的なユースケースとして、SAP Task Centerがあります。*2 SAP Task Centerは様々なSAPアプリケーション(例: SAP SuccessFactorsなど)からユーザー宛てのワークフロー承認依頼やタスクを集約し、一つの受信トレイに統合表示するサービスです 。ここで鍵となるのがユーザーの一貫性であり、異なるバックエンドシステムから取得したタスクが同一人物に紐付いていることを保証する必要があります。グローバルユーザーIDがその共通鍵として機能し、各システムから集めたタスクを正しいユーザーに関連付ける役割を担います 。もしグローバルユーザーIDによる統一がなければ、システム間でユーザーIDを突き合わせる複雑なロジックが必要となり、タスクの漏れや誤割り当てが発生しかねません。
また、SAPが提供する新しいAIデジタルアシスタントであるJouleの利用シナリオでもグローバルユーザーIDが重要です。JouleはSAP Business Technology Platform上で動作し、複数のバックエンドシステム(例えばSAP S/4HANA CloudやSAP SuccessFactorsなど)と連携してユーザーの作業支援を行います。*4
その前提として、各システムでユーザーが同一人物であることを認識できなければなりません。実際、Jouleを有効化するためには連携する全ての製品上で同じユーザーのグローバルユーザーIDが存在していることが必要条件となっています。*5 このように、SAP Task CenterやJouleのような横断的サービスでは統合認証基盤としてグローバルユーザーIDが不可欠であり、各ソリューション間でスムーズにユーザーコンテキストを共有する鍵となっています。
3. セットアップの概要
グローバルユーザーIDの導入とSAP Identity Authentication Service (SAP IAS) との連携設定を行う際の概要ステップを以下に整理します。
前提準備: まず、グローバルユーザーIDを活用するためにシステム環境を整備します。SAP Cloud Identity Servicesのテナントが用意されていること、各SAP製品(例: SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANAなど)がSAP IAS連携に対応したバージョン・設定になっていることを確認します。ユーザーIDの一元化とプロビジョニング: 次に、ユーザーアカウント情報の一元管理を設計していきます。各システムに分散して存在するユーザーを統合するため、SAP Cloud Identity Services – Identity Provisioning (通称SAP IPS、以下SAP IPSとして言及) などのツールを用いてユーザー情報を同期させます。例えば、人事システムであるSAP SuccessFactorsをユーザーのマスタとして扱う場合には、SAP IPS経由でSAP IASのユーザーストアにユーザーをプロビジョニングすることで、同時にグローバルユーザーIDを生成・付与します。SAP IPS のSCIMプロビジョニングでは、SAP拡張スキーマの一部であるurn:ietf:params:scim:schemas:extension:sap:2.0:User 内のuserUuid属性(グローバルユーザーID)が各ユーザーに含まれるため、これを用いて全システムで共通のIDを保持できます。*1
このように、マスタソースからSAP IASへユーザーを流す形でプロビジョニングを行うと、各ユーザーに統一されたグローバルユーザーIDが割り当てられ、他のシステムへも同じIDを展開できます。その他のSAP IPSの利用シナリオでは、SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANA CloudからSAP Build Work Zone(SAP BTP上の統合ポータルサービス)に対し、ユーザーのメールアドレス・グローバルユーザーID・所属グループなどを同期する、といったパターンが取られることもあります。SAP IASでの認証設定: SAP IASを各システムの認証基盤(IdP)とするための信頼関係とユーザー属性マッピングを構成します。具体的には、SAP IAS管理コンソールで各アプリケーション(接続先システム)についてのSAML 2.0設定を開き、ユーザー識別に使用する属性を設定します。グローバルユーザーIDによる認証連携を行う場合、SAP IAS側でSAMLアサーション属性の一つとしてuser_uuid(表示名「Global User Id」)が含まれていることを確認する必要があります。もし既定で存在しない場合は、「カスタム属性の追加」機能からIdentity Directoryをソースとしてuser_uuid属性を追加し、その値にグローバルユーザーIDをマッピングする必要があります。*6 この設定により、ユーザーがSAP IASで認証された際にグローバルユーザーIDがSAMLトークンに含まれ、連携先のアプリケーション側でユーザーを一意に特定できるようになります。なお、EmailやLogin Nameといった他の属性も必要に応じてアサーションに含めますが、システム横断のユーザーの突合処理にはグローバルユーザーID(user_uuid)がキー項目となります。各システムでの受入設定: 最後に、個々のSAP製品側でSAP IASから受け取ったユーザーを正しくマッピングする設定を行います。SAP SuccessFactorsの場合、SAP IASと統合認証を行うことでSAP SuccessFactors内のユーザーにグローバルユーザーIDが関連付けられます(SAP IAS上で生成されたIDがSAP SuccessFactorsユーザーに対応付けられる)ため、特別な追加設定は不要です。SAP S/4HANA等のシステムでも、クラウド製品であればSAP IASとのトラスト設定を行い、Name IDや属性としてグローバルユーザーIDを用いるよう設定します。オンプレミスのSAP S/4HANAをSAP Task Centerに接続するようなケースでは、ABAPユーザー管理(例えばSU01)上でグローバルユーザーID(SAPUSER_UUID)が取得できることを確認し、それを用いてTask Center側でユーザーを紐付けます。各システム固有の設定手順については製品ごとのガイドに委ねられますが、要点は「SAP IASから渡されたグローバルユーザーIDをキーとしてユーザーを識別する」ように受入れ側を調整することです。
4. セットアップにおける課題・考慮点
グローバルユーザーIDとSAP IASを設定する際によく直面する課題や注意すべきポイントを以下にまとめます。
ID概念の混同に注意すること: SAPシステムには、ユーザーごとに様々なIDや番号(例: ユーザーID、従業員ID、Person ID、User GUIDなど)が存在します。プロジェクトメンバーにはグローバルユーザーIDの目的と他のIDとの違いを周知し、名称の類似による混乱を避ける必要があります。ユーザー同期と一意性の確保: 各システムで同じユーザーに別々のグローバルユーザーIDが発行されてしまう事態は避けねばなりません。グローバルユーザーIDはSAP IASでユーザー作成時に自動生成されますが、例えば同一人物を異なるシステム上で個別に新規登録してしまうと、それぞれに別個のグローバルIDが割り当てられてしまいます。これを防ぐには、前述のように一元的なプロビジョニングでユーザーを管理するか、既存ユーザーの統合時にはメールアドレスや社員IDなど共通のキーで突合して単一のユーザーに紐付ける作業が必要です。特に、最初にSAP IAS側でユーザーを作成してグローバルユーザーIDを発行し、それをもとに他システムへユーザーを連携させるフローにすると安全です。属性マッピングの誤り: SAP IASと各アプリケーションの接続設定において、グローバルユーザーIDが正しくマッピングされていないとユーザー対応付けの不整合が発生します。例えば、SAP IAS側でuser_uuidをアサーションに含め忘れたり、受入れ側で別の属性(メールアドレス等)をユーザーキーにしている場合、システム間でユーザーを同一人物とみなせず統合が破綻します。グローバルユーザーIDをユーザー識別の軸として用いる設定になっているかを念入りに確認する必要があります。運用時のユーザー管理: グローバルユーザーID導入後は、ユーザーライフサイクル管理にも留意が必要です。ユーザーの入社・退職時には、SAP IAS (の中でもユーザーマスタであるIdentity Directory機能) 上のユーザーアカウント追加・削除プロセスと、各業務システム側のユーザー管理がきちんと同期しているか確認します。例えば退職者のアカウントを、あるシステムで削除したがSAP IAS上には残っているといった場合、グローバルユーザーIDを介して不要なアクセスが残存するリスクがあります。また、企業内のIDプロバイダ(Entra ID / Microsoft Active Directoryなど)とSAP IASをフェデレーションしている場合、SAP IASをプロキシモードで利用するだけでは自動的にグローバルユーザーIDが各システムに行き渡らないため、別途SAP IPSでの定期同期や初回ログイン時の自動プロビジョニング設定を検討してください。
最後に
以上、SAP環境におけるグローバルユーザーIDとSAP IAS設定の概要とポイントを解説しました。複数のSAPソリューションを統合的に利用する際には、グローバルユーザーIDによる共通のユーザー基盤が成功の鍵となります。公式のSAP Help Portal や、SAP Communityのガイド記事も参照しつつ、自社のランドスケープに合わせた設計・設定を進めてください。
参考文献
*1) SAP Help Portal:SAP Cloud Identity Servicesを利用したユーザーIDの連携シナリオおよびその設定ガイド
https://help.sap.com/docs/cloud-identity/system-integration-guide/global-user-id-in-integration-scenarios*2) SAP Help Portal:SAP Task Centerとは?
https://help.sap.com/docs/task-center/sap-task-center/what-is-sap-task-center?locale=en-US*3) SAP Community Blog:SAP S/4HANA Cloud Private EditionのJouleセットアップ手順に関するステップバイステップガイド
https://community.sap.com/t5/enterprise-resource-planning-blogs-by-sap/joule-for-sap-s-4hana-cloud-private-edition-a-comprehensive-setup-guide/ba-p/13786453*4) SAP Help Portal:Jouleとは?
https://help.sap.com/docs/JOULE/3fdd7b321eb24d1b9d40605dce822e84/38636457acc346daa4ff7069f041a11a.html*5) SAP Help Portal:JouleをSAP製品と連携する際の前提条件
https://help.sap.com/doc/de3af3c0f81642dbaa4d36172ed57a72/CLOUD/en-US/79bfc83ab386450c8cd9c7937ce26a3a.pdf#:~:text=services%20tenant%20and%20within%20all,based%20application%20and%20relies%20on*6) SAP Help Portal:Jouleの設定手順 SAP Cloud Identity Servicesとの連携設定
https://help.sap.com/doc/de3af3c0f81642dbaa4d36172ed57a72/CLOUD/en-US/79bfc83ab386450c8cd9c7937ce26a3a.pdf#:~:text=groups%20Groups%20user_uuid%20Global%20User,Save%20your%20configuration
はじめに現代の企業において、業務のクラウド化・多様化、そしてAIによる高度化が進む中、複数のSAP製品を横断して利用するケースが増えています。こうした環境では、ユーザーごとの一貫したID管理が求められ、複数のシステム間で同一人物を正確に識別し、適切な認証・権限付与を行うことが重要になります。まさにSAPのAIデジタルアシスタントのJouleやSAP Task Centerも対象の一つです。本ガイドでは、SAPのクラウド基盤であるSAP Cloud Identity Servicesの重要な一機能である「グローバルユーザーID」の役割と仕組みに加え、その実装を支えるSAP Cloud Identity Services – Identity Authentication(SAP IAS)の設定方法について解説します。特に、SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANAといった主要なSAP製品との連携において、ユーザー情報の統合とシングルサインオンの実現をどのように行うかに焦点を当て、実践的なステップや注意点を紹介します。 1. グローバルユーザーIDとは何かグローバルユーザーIDとは、SAPが提供する各種ビジネスアプリケーションやサービスを含む広範なランドスケープの中で、特定のユーザーを一意に識別するための共通IDのことを意味します。*1このグローバルユーザーIDを持たないシステム構成では、システムAからシステムBにアクセスする際に、それぞれのシステムでのどのユーザーがどのユーザーと同じ人物であるのかを認識するために、それ相応の処理を実装する必要がありました。 しかしグローバルユーザーIDという概念と実装を導入することにより、こうした煩雑なIDマッピングに必要性を解消できます。技術的にはUUID(Universally Unique Identifier)/ GUID (Global Unique Identifier)形式で生成される識別子であり、例えばSAP Cloud Identity Services, Identity Authentication(通称SAP IAS、以下SAP IASとして言及します) 上でユーザーが作成される際に自動的に割り当てられます。このグローバルユーザーIDは「関連付け属性 (correlation attribute)」として機能し、複数のシステムに存在するユーザーアカウント同士を裏側で紐付ける役割を果たします。例えば、ある従業員がSAP SuccessFactorsとSAP S/4HANAの両方にユーザーアカウントを持つ場合、グローバルユーザーIDによってその人物であることが一意に結び付けられます。これにより、直接的にやり取りを行うシステムにとどまらず、その他のシステムも、特定の処理が同じユーザーに関連して行われていることを相互に認識でき、ユーザー情報やタスクの統合参照が可能となります。グローバルユーザーIDはあくまで内部的なIDであり、エンドユーザーがログイン時に入力するユーザー名やメールアドレスとは別物ですが、システム連携の中核となる重要な要素です。 2. なぜ今、グローバルユーザーIDが必要なのか?現代のSAPを取り巻く環境では、複数のクラウドサービスやオンプレミスシステムを統合し、ユーザーにシームレスな体験を提供することが求められています。しかし各システムでユーザーIDがばらばらな状態では、ユーザーごとにデータやタスクを統合する際に対応関係を取ることが非常に困難となります。そこで、グローバルユーザーIDという単一の識別子を導入して効果的に利用することで、システム境界を越えたユーザー関連データの統合という課題に対処し、企業全体で一貫したユーザー識別を実現することができるのです。結果として、一度の認証で複数のSAPサービスにアクセスできるシングルサインオン (SSO) や、一貫した権限管理が可能となります。具体的なユースケースとして、SAP Task Centerがあります。*2 SAP Task Centerは様々なSAPアプリケーション(例: SAP SuccessFactorsなど)からユーザー宛てのワークフロー承認依頼やタスクを集約し、一つの受信トレイに統合表示するサービスです 。ここで鍵となるのがユーザーの一貫性であり、異なるバックエンドシステムから取得したタスクが同一人物に紐付いていることを保証する必要があります。グローバルユーザーIDがその共通鍵として機能し、各システムから集めたタスクを正しいユーザーに関連付ける役割を担います 。もしグローバルユーザーIDによる統一がなければ、システム間でユーザーIDを突き合わせる複雑なロジックが必要となり、タスクの漏れや誤割り当てが発生しかねません。 また、SAPが提供する新しいAIデジタルアシスタントであるJouleの利用シナリオでもグローバルユーザーIDが重要です。JouleはSAP Business Technology Platform上で動作し、複数のバックエンドシステム(例えばSAP S/4HANA CloudやSAP SuccessFactorsなど)と連携してユーザーの作業支援を行います。*4 その前提として、各システムでユーザーが同一人物であることを認識できなければなりません。実際、Jouleを有効化するためには連携する全ての製品上で同じユーザーのグローバルユーザーIDが存在していることが必要条件となっています。*5 このように、SAP Task CenterやJouleのような横断的サービスでは統合認証基盤としてグローバルユーザーIDが不可欠であり、各ソリューション間でスムーズにユーザーコンテキストを共有する鍵となっています。 3. セットアップの概要グローバルユーザーIDの導入とSAP Identity Authentication Service (SAP IAS) との連携設定を行う際の概要ステップを以下に整理します。前提準備: まず、グローバルユーザーIDを活用するためにシステム環境を整備します。SAP Cloud Identity Servicesのテナントが用意されていること、各SAP製品(例: SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANAなど)がSAP IAS連携に対応したバージョン・設定になっていることを確認します。ユーザーIDの一元化とプロビジョニング: 次に、ユーザーアカウント情報の一元管理を設計していきます。各システムに分散して存在するユーザーを統合するため、SAP Cloud Identity Services – Identity Provisioning (通称SAP IPS、以下SAP IPSとして言及) などのツールを用いてユーザー情報を同期させます。例えば、人事システムであるSAP SuccessFactorsをユーザーのマスタとして扱う場合には、SAP IPS経由でSAP IASのユーザーストアにユーザーをプロビジョニングすることで、同時にグローバルユーザーIDを生成・付与します。SAP IPS のSCIMプロビジョニングでは、SAP拡張スキーマの一部であるurn:ietf:params:scim:schemas:extension:sap:2.0:User 内のuserUuid属性(グローバルユーザーID)が各ユーザーに含まれるため、これを用いて全システムで共通のIDを保持できます。*1このように、マスタソースからSAP IASへユーザーを流す形でプロビジョニングを行うと、各ユーザーに統一されたグローバルユーザーIDが割り当てられ、他のシステムへも同じIDを展開できます。その他のSAP IPSの利用シナリオでは、SAP SuccessFactorsやSAP S/4HANA CloudからSAP Build Work Zone(SAP BTP上の統合ポータルサービス)に対し、ユーザーのメールアドレス・グローバルユーザーID・所属グループなどを同期する、といったパターンが取られることもあります。SAP IASでの認証設定: SAP IASを各システムの認証基盤(IdP)とするための信頼関係とユーザー属性マッピングを構成します。具体的には、SAP IAS管理コンソールで各アプリケーション(接続先システム)についてのSAML 2.0設定を開き、ユーザー識別に使用する属性を設定します。グローバルユーザーIDによる認証連携を行う場合、SAP IAS側でSAMLアサーション属性の一つとしてuser_uuid(表示名「Global User Id」)が含まれていることを確認する必要があります。もし既定で存在しない場合は、「カスタム属性の追加」機能からIdentity Directoryをソースとしてuser_uuid属性を追加し、その値にグローバルユーザーIDをマッピングする必要があります。*6 この設定により、ユーザーがSAP IASで認証された際にグローバルユーザーIDがSAMLトークンに含まれ、連携先のアプリケーション側でユーザーを一意に特定できるようになります。なお、EmailやLogin Nameといった他の属性も必要に応じてアサーションに含めますが、システム横断のユーザーの突合処理にはグローバルユーザーID(user_uuid)がキー項目となります。各システムでの受入設定: 最後に、個々のSAP製品側でSAP IASから受け取ったユーザーを正しくマッピングする設定を行います。SAP SuccessFactorsの場合、SAP IASと統合認証を行うことでSAP SuccessFactors内のユーザーにグローバルユーザーIDが関連付けられます(SAP IAS上で生成されたIDがSAP SuccessFactorsユーザーに対応付けられる)ため、特別な追加設定は不要です。SAP S/4HANA等のシステムでも、クラウド製品であればSAP IASとのトラスト設定を行い、Name IDや属性としてグローバルユーザーIDを用いるよう設定します。オンプレミスのSAP S/4HANAをSAP Task Centerに接続するようなケースでは、ABAPユーザー管理(例えばSU01)上でグローバルユーザーID(SAPUSER_UUID)が取得できることを確認し、それを用いてTask Center側でユーザーを紐付けます。各システム固有の設定手順については製品ごとのガイドに委ねられますが、要点は「SAP IASから渡されたグローバルユーザーIDをキーとしてユーザーを識別する」ように受入れ側を調整することです。 4. セットアップにおける課題・考慮点グローバルユーザーIDとSAP IASを設定する際によく直面する課題や注意すべきポイントを以下にまとめます。ID概念の混同に注意すること: SAPシステムには、ユーザーごとに様々なIDや番号(例: ユーザーID、従業員ID、Person ID、User GUIDなど)が存在します。プロジェクトメンバーにはグローバルユーザーIDの目的と他のIDとの違いを周知し、名称の類似による混乱を避ける必要があります。ユーザー同期と一意性の確保: 各システムで同じユーザーに別々のグローバルユーザーIDが発行されてしまう事態は避けねばなりません。グローバルユーザーIDはSAP IASでユーザー作成時に自動生成されますが、例えば同一人物を異なるシステム上で個別に新規登録してしまうと、それぞれに別個のグローバルIDが割り当てられてしまいます。これを防ぐには、前述のように一元的なプロビジョニングでユーザーを管理するか、既存ユーザーの統合時にはメールアドレスや社員IDなど共通のキーで突合して単一のユーザーに紐付ける作業が必要です。特に、最初にSAP IAS側でユーザーを作成してグローバルユーザーIDを発行し、それをもとに他システムへユーザーを連携させるフローにすると安全です。属性マッピングの誤り: SAP IASと各アプリケーションの接続設定において、グローバルユーザーIDが正しくマッピングされていないとユーザー対応付けの不整合が発生します。例えば、SAP IAS側でuser_uuidをアサーションに含め忘れたり、受入れ側で別の属性(メールアドレス等)をユーザーキーにしている場合、システム間でユーザーを同一人物とみなせず統合が破綻します。グローバルユーザーIDをユーザー識別の軸として用いる設定になっているかを念入りに確認する必要があります。運用時のユーザー管理: グローバルユーザーID導入後は、ユーザーライフサイクル管理にも留意が必要です。ユーザーの入社・退職時には、SAP IAS (の中でもユーザーマスタであるIdentity Directory機能) 上のユーザーアカウント追加・削除プロセスと、各業務システム側のユーザー管理がきちんと同期しているか確認します。例えば退職者のアカウントを、あるシステムで削除したがSAP IAS上には残っているといった場合、グローバルユーザーIDを介して不要なアクセスが残存するリスクがあります。また、企業内のIDプロバイダ(Entra ID / Microsoft Active Directoryなど)とSAP IASをフェデレーションしている場合、SAP IASをプロキシモードで利用するだけでは自動的にグローバルユーザーIDが各システムに行き渡らないため、別途SAP IPSでの定期同期や初回ログイン時の自動プロビジョニング設定を検討してください。 最後に以上、SAP環境におけるグローバルユーザーIDとSAP IAS設定の概要とポイントを解説しました。複数のSAPソリューションを統合的に利用する際には、グローバルユーザーIDによる共通のユーザー基盤が成功の鍵となります。公式のSAP Help Portal や、SAP Communityのガイド記事も参照しつつ、自社のランドスケープに合わせた設計・設定を進めてください。 参考文献*1) SAP Help Portal:SAP Cloud Identity Servicesを利用したユーザーIDの連携シナリオおよびその設定ガイドhttps://help.sap.com/docs/cloud-identity/system-integration-guide/global-user-id-in-integration-scenarios*2) SAP Help Portal:SAP Task Centerとは?https://help.sap.com/docs/task-center/sap-task-center/what-is-sap-task-center?locale=en-US*3) SAP Community Blog:SAP S/4HANA Cloud Private EditionのJouleセットアップ手順に関するステップバイステップガイドhttps://community.sap.com/t5/enterprise-resource-planning-blogs-by-sap/joule-for-sap-s-4hana-cloud-private-edition-a-comprehensive-setup-guide/ba-p/13786453*4) SAP Help Portal:Jouleとは?https://help.sap.com/docs/JOULE/3fdd7b321eb24d1b9d40605dce822e84/38636457acc346daa4ff7069f041a11a.html*5) SAP Help Portal:JouleをSAP製品と連携する際の前提条件https://help.sap.com/doc/de3af3c0f81642dbaa4d36172ed57a72/CLOUD/en-US/79bfc83ab386450c8cd9c7937ce26a3a.pdf#:~:text=services%20tenant%20and%20within%20all,based%20application%20and%20relies%20on*6) SAP Help Portal:Jouleの設定手順 SAP Cloud Identity Servicesとの連携設定https://help.sap.com/doc/de3af3c0f81642dbaa4d36172ed57a72/CLOUD/en-US/79bfc83ab386450c8cd9c7937ce26a3a.pdf#:~:text=groups%20Groups%20user_uuid%20Global%20User,Save%20your%20configuration Read More Technology Blogs by SAP articles
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