SAP BTP Hackathon 2025 ファイナリスト座談会 Vol.1

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 本記事では末尾に用語注釈を掲載しています。文中に不明な用語がありましたら、別途ご参照ください。 

はじめに 

 本ブログは「SAP BTP Hackathon 2025」において、一次選考を通過し、ファイナリストとなったアクセンチュア株式会社様(以下、アクセンチュア)、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様(以下、デロイト トーマツ)、株式会社JSOL様(以下、JSOL)の3社によって行われた座談会についての記事です
 「SAP BTP Hackathon2025」は、SAPジャパン株式会社が主催するパートナー/ユーザー企業を対象としたハッカソンイベントで、与えられた課題に対して、SAP Business Technology Platform ( ※1) (以下、BTP)を用い短期間で集中的に開発を行いその成果を競い合うイベントです。 今回の課題は、「SAP業務にAIでサプライズを!それ、A​​Iに任せません?」です。4年目の開催となった今年のハッカソンは、38社47チーム354名が参加されました。
 2025年5月よりEnablementセッションを実施し、同年6月に1週間のハッカソン(バーチャル形式)を行いました。 数多くの応募作品の中からSAPジャパンで一次選考を行い、ファイナリスト6組を選出。7月9日(水)にSAPジャパン本社オフィスにて開催された発表イベントで最終選考を実施しました。
 ファイナリストに選ばれた
6様を2組に分け、座談会という形で各チームの作品や、BTPの各機能についてお話を伺いました。 

チーム/座談会参加者紹介 
1.アクセンチュア株式会社様(チーム名:勝どき界隈)


△ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々
谷村氏、尾濱氏、王氏、舘鼻氏、浦上氏、平田氏の6名で構成されたチーム。 
インタビューには下記の5名にご参加いただきました。(写真右) 

後列左から順に、

王氏(アソシエイト・マネジャー):同部署所属。入社後約2年間、BTPの設計開発を担当。 
尾濱氏(アソシエイト・マネジャー):同部署所属。約5年SAP Ariba(※2)のSMEを担当。 
谷村氏(マネジャー):本ハッカソンのチームリーダーテクノロジー コンサルティング本部所属・SAPビジネスインテグレーショングループ所属。BTPの設計開発管理・SMEを約9年担当。 

前列左から順に、 

館鼻氏(スペシャリスト):同部署所属。入社後約2年間、BTPの業務に携わる。 
浦上氏(スペシャリスト):同部署所属。BTP機能の設計開発・レビューを担当。入社から3年BTPの業務に携わる。 

2.デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様(チーム名:Project D)


△ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々
宮脇氏、七崎氏、倉林氏、田原氏、山口氏、萩原氏、森氏、作間氏、牛間木氏、山岸氏、小林氏の11名で構成されたチーム。 
インタビューには下記の5名にご参加いただきました。(写真右) 

後列左から順に、 

宮脇氏(ディレクター):DT&S (Digital Transformation with SAP)所属。SAPビジネスのアプリケーション開発に従事。S/4HANA、BTPのアプリ開発全般をリード。AIビジネスのリードも兼務。SAPコンサル歴は20年弱で、BTPにはリリース当初から携わる。 
作間氏(コンサルタント):同部署所属。アプリケーション基盤の導入支援を担当。SAPコンサル・BTP歴は1年ほど。 
山岸氏(コンサルタント):同部署所属。BTPの拡張開発やAI活用を担当。BTP歴は半年ほど。 

前列左から順に、 

小林氏(コンサルタント):同部署所属。アプリケーション基盤の導入支援を担当。SAPコンサル歴・BTP歴は1年ほど。 
七崎氏(シニアコンサルタント):同部署所属。本ハッカソンのチームリーダー。BTPの拡張開発に従事。昨今はAI活用の支援も行っている。SAPコンサル歴は約8年で、BTP歴は約6年。 

3.株式会社JSOL様(チーム名:J-Deepers 



△ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々
井戸氏、松嶋氏、中村氏、小暮氏、野坂氏、江川氏、濱田氏、中尾氏の8名で構成されたチーム 
インタビューには以下の4名にご参加いただきました。(写真右

左から順に、

井戸氏(アプリケーションコンサルタント):チームリーダー。ビジネストランスフォーメーション事業本部所属。SAP S/4HANAの新規導入における、SD領域を主に担当。SAPコンサル歴は2年ほど、BTP歴は今回のハッカソンが初。 
中村氏(SAP BASISエンジニア):データ&テクノロジー事業本部所属。主にBASIS領域業務に従事。SAPコンサル歴は2年、BTP歴は1年。 
中尾氏(アプリケーションコンサルタント):同部署所属。SAP S/4HANAやBTPの導入を担当。SAPコンサル歴は6年BTP歴は4年。 
濱田氏(営業):エンタープライズ営業統括部所属。製薬業界向けにSAP等のソリューションの営業活動を行っている。 

 

インタビュー内容

一次選考を通過したときのお気持ちと社内の反応を教えて下さい。 

 谷村氏(アクセンチュア):社内の反応は、良くも悪くも「無風」でした(笑)。チームの中ではそんなムードは全くなかったのですが、周囲からは「もちろん一次選考は通るよね?」という空気もあり、結果を聞いてホッとすると同時に嬉しさが込み上げました。 

 濱田氏(JSOL):社内では「まずはおめでとう」という声が多かったです。一方でチーム内では、「これだけ時間をかけた手前、一次選考を通らなかったらなんと言われるだろう」という不安感が正直あったので、かなりホッとすることができました。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):昨年もファイナリストになることはできましたが、優勝には届きませんでした。なので「今回優勝してこい!」という声が多かったです。一次選考の結果通知が予定として聞いていたタイミングよりも少し遅かったので、ドキドキしていたのですが、その分通知を受けた時の喜びは大きく、思わずガッツポーズをしたのを覚えています。 

開発した作品の紹介/ディスカッション 

 今回開発した作品を各社紹介いただき、お互いに感想や質問などを行い作品についてのディスカッションを行いました。

1. JSOL株式会社 (チーム名:J-Deepers) 

ソリューション名:DEEPNAVI

 中村氏(JSOL):昨今、関税などの多くの外部情報に対して、経営企画部門が一つずつ分析しなければならず、大きな業務負担となっています。この問題をAIを用いて解決することはできないか?、と考えたのがこのソリューションを開発したきっかけです。 
 自社への影響調査や対応方針の検討、経営層への報告などの業務負荷が重くのしかかっていますが、それぞれを解決する機能を本ソリューションは搭載しています。 


 中村氏(JSOL):このアーキテクチャでは、ユーザーが利用する画面を SAP Build Apps(※3) (以下、Build Apps)で作成し、その裏側の処理は Cloud Foundry Runtime(※4)上で動くPythonとNode.jsによって実装しています。データは SAP HANA Cloud(※5) (以下、HANA Cloud)に蓄積され、分析には SAP Analytics Cloud を活用します。 
 外部情報の取り込みにはNewsAPI を使用してニュースデータを収集しています。一方、日々の業務データは SAP S/4HANA とSAP Connectivity Service(※6)を用いて接続し、業務シナリオに組み込んでいます。 
 開発環境には SAP Business Application Studio(※7)を使い、さらに生成AIのエンジンはOpenAI GPT-4o miniを用いて、文章生成や分析支援といった機能を実現しています。 

 浦上氏(アクセンチュア):ご説明ありがとうございます。今回、私たちアクセンチュアチームは多くの方に共感していただきやすいと考え、調達領域のソリューションを開発しました。御社のソリューションは経営寄りの視点でありながら、多くの共感を得られていたと感じます。このソリューションのアイデアは、どのような発想から生まれたのでしょうか? 

 井戸氏(JSOL):私たちは今回、AIの導入によって全社的なイノベーションを起こしたいと考えていました。そのため、あえて各業務領域に絞らない方針を採りました。その上で、最もインパクトが大きくて差別化を図れるトピックとして、経営企画を選ぶことにしました。

 館鼻氏(アクセンチュア):ソリューションアーキテクチャを見ると、非常にボリュームが大きいことがわかります。今回、何人で作成したのでしょうか?また、難しかった点はありましたか? 

 中村氏(JSOL):作成したメンバーは4人です。また、SAP Datasphere(※8)を未だ使ったことが無かったので、初めてのソリューションをどう使いこなすのか?という点が難しかったですね。 
 
 小林氏(デロイト トーマツ):4人で作成されたとのことですが、どのような役割分担だったのでしょうか? 
 
 中村氏(JSOL):
UIの部分に2人、システムの裏側の処理の部分に2人、それぞれ得意なメンバーを割り当てました。あとは、AIの力も借りながら作り上げました。ですが、今回初めて経験する部分もあったので、ハッカソンを通じて多くのことをキャッチアップすることができました。 

2. アクセンチュア株式会社様 (チーム名:勝どき界隈) 

ソリューション名:ShowtQn


 谷村氏(アクセンチュア):今回の審査では「商用化」が大きなキーワードとなっていました。そのため、数年後にJoule(※9)で実現できそうな機能は避けるよう意識しました。そのため、SAPの製品から生まれるデータに限らず、議事録などのSAP製品以外から得られる情報データとして取込ができ仕組みを構築していますそれを起点として、社内で今何が起きているのか踏まえた回答を提供するAIチャット、社内の状況を踏まえうえでの最適な取引先への返信を行える機能を実装しました。 

 谷村氏(アクセンチュア):ソリューションアーキテクチャ図の右側が、取込を行う対象のSAPから生まれる業務データと、非SAPデータとなっています。それらのデータはHANA Cloudに蓄積されますが、その際にはデータソースごとにテーブルを分けて管理する仕組みとしています。 
それによって、「○○さんと行った○○日の会議の議事録を教えて」というようなユーザーからの要求に対応できるようになっています。 

 井戸氏(JSOL):「情報の属人化」というのは多くの企業に共通する大きな課題だと思います。そのため、ShowtQnが高い精度で実現されれば、是非弊社でも活用したいですね。ところで、MicrosoftのCopilotと似ている印象も受けましたが、どのような点で差別化ができると考えていますか? 

 王氏(アクセンチュア):ShotQnの強みは、音声や画像といった非構造化データを取り込める点にあると考えています。完成した作品を試した際には、実際に弊社で行われたミーティングの議事録をHANA Cloudに取り込むことができ、その有効性を確認できました。 

 作間氏(デロイト トーマツ):私自身、正直ハッカソン期間で「もっと時間があれば!」と感じました。ですが、御社は「ShowtQn」というキャラクターの作りこみや、スマートフォンからのアクセスができる点など、売り物として完成されており、最後まで作りこまれている印象を受けました。どのようなタイムラインで開発を進めたのでしょうか? 

 浦上氏(アクセンチュア):ハッカソンのお題が発表される1か月ほど前から、「どんなことをしたいか」というコンセプトは話し合っていました。その上で、役割ごとの細かいスケジュール管理を行ったのが良かったと思っています。ですが、やはり実装期間の1週間は追い込んでやりました(笑)。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):音声や画像を取り込んで生成AIによる分析を行う、という流れは、精度が求められると思います。その点で開発はとても大変だったと思うのですが、感想を聞きたいです。 

 館鼻氏(アクセンチュア):仰る通り大変でした。そのため、精度の高い出力結果を得られる技術選定に時間を掛けるようにしていました。 

3. デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様 (チーム名:Project D) 

ソリューション名:AI-Driven Orchestra for Procurement

 七崎氏(デロイト トーマツ):調達業務における課題として、(1) ベテランと若手のスキル格差、(2) ステークホルダーの多様化に伴う調整の複雑化、そして (3) サプライヤリスク管理に要する工数の増大、という3つが顕在化しています。これらを解決するために、2つのアプリケーションを開発しました。 
 まず、”サプライヤ評価の自動提案アプリケーション”では、AIが評価に必要なデータ収集から評価の実施までを一貫して担います。属人化が起こりやすい評価プロセスを平準化することが可能となっています。 
 次に、”価格交渉の自動提案アプリケーション”では、従来ベテランバイヤーのノウハウに依存しがちな交渉業務に対し、過去の取引データや事前に定義したルールを元にしてAIが交渉方針や提示条件を自動で導出します。一方で、人と人との関係性に根ざす判断や最終的な合意形成といった領域は引き続き人が担い、分析・準備・条件シミュレーションなど従来人手で行っていた作業は極力AIに移管する設計としています。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):ユーザーが実際に操作する画面は3つです。先ほどの2つのアプリケーションに加え、各AIエージェントが保有するスキルを業務部門の担当者が視覚的にメンテナンスできるエージェントスキル管理画面を用意しました。これにより専門知識がなくてもスキルの追加・更新・有効化が行えるため、現場主導で精度向上と改善サイクルを回せます。 
 調達の価格交渉はSAP Aribaの標準画面上に組み込まれており、ボタンひとつでAIによる交渉支援を起動できる設計です。この導線や操作ガイダンスにはDAPツールであるWalkMe(※10)を活用し、ユーザーが迷わず使いこなせる体験を実現しています。 
 RAG(※11)はSAP AI Core(※12)とSAP AI Launchpad(※13上に構築し、Enablementセッションで学んだDocument Grounding(※14)の手法も取り入れました。これにより、社内外のドキュメントに基づいた応答生成と、説明可能性の高い提案を両立しています。 
 
 井戸氏(JSOL):御社のソリューションはAIエージェント同士のコラボレーションが特徴的だと感じました。その構成にした理由を教えて欲しいです。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):はい、仰る通りA2A(Agent to Agent)の世界観を持って今回開発を行いました。単一のAIエージェントで全てを完結しようとすると、多岐にわたるタスク指示や膨大なスキル定義が必要になり、精度の安定性や保守性の確保が難しくなります。そこで、役割ごとにエージェントを分担し、相互連携は疎結合なインターフェースで行うマルチエージェント構成を採用しました。これにより、将来的に要件が増えた際にも新たなエージェントを追加するだけで柔軟に拡張でき、既存機能への影響も最小化できます。 
 
 尾濱氏(アクセンチュア):価格交渉業務において、最終的な合意形成は人が担う設計にされていますが、今後も人が行うべき業務 AIが担うべき業務 の線引きはどのように判断されたのでしょうか? 

 七崎氏(デロイト トーマツ):事実やデータに基づく情報収集・整理・分析、そして選択肢の生成はAIに任せるべきだと考えています。一方で、様々なコミュニケーションを通じて人と人がつながり、ビジネスが生まれる場面は少なくありません。だからこそ、人は関係構築や合意形成といった価値創出に集中し、その前提となる作業はできる限りAIが肩代わりする。この役割分担が最も効果的だと考えています。 
 
 中村氏(JSOL):御社にはAI技術をお客様に紹介する専門施設があると思います。そこでも今回の作品を展示していらっしゃるのでしょうか? 

 宮脇氏(デロイト トーマツ):はい、”Deloitte Tohmatsu AI Experience Center”という共創型AI体験施設を構えております。今回開発したソリューションに限らず、様々な技術を紹介しておりまして、とてもよい評判を頂いております。その中でも、マルチエージェントによる業務効率化、というトピックは非常に高い期待値を頂いています。 

今回のハッカソンを通して、特に気に入ったBTP機能あれば教えてください。

 山岸氏(デロイト トーマツ):今回のハッカソンではAIの実装を担当しました。中でも Generative AI Hub の Document Grounding と Orchestration(※15) の機能が非常に便利でした。データを容易にベクトル化して格納でき、格納状況をUI上で確認できるため、AI実装が初めての立場でも扱いやすかったです。実はハッカソン後、別プロジェクトで Generative AI Hub を使わずにRAGを構築したのですが、その際はデータベースの設定やベクトル化(※16)の用意など準備作業に大きな手間がかかりました。一方で Generative AI Hub ではその準備があらかじめ整っているため、実装に集中できる点が大きな利点です。AI実装の経験がまだない方にとっても、とても有用な機能だと感じています。 
 
 中尾氏(JSOL):SAP HANA Cloud Vector Engine(※17)がとても便利だと思いました。自分の必要な情報を意味ベースで検索でき、ハルシネーションの抑制にもつながるため、使い勝手が良かったです。また、Build Appsも非常に使いやすかったです。直感的にUIを開発することができる点が便利でした。 

 中村氏(JSOL):実は、弊社のインターン生にもBuild Appsを使わせてみたんです。全くプログラミング経験が無い学生でしたがHANA Cloudにデータを格納し、POST/GETまで自力でこなしていて驚きました。また、Microsoft Azureに格納したデータを用いてグラフを作成することもしていました。初心者にとっても扱いやすい、いいソリューションだと感じました。 

 浦上氏(アクセンチュア):私はハッカソンに2年前にも出場していて、その際にもBuild Appsを使用したのですが、どんどん進化していると感じました。 OData(※18)のエンティティがあり、SAP Destination service(※19)で接続していれば、作成、編集、削除といった画面をすぐに作成することができる機能があります。ODataさえあればそのような画面をすぐ作れるという点が、初心者の方にとって非常に使いやすいと感じました。 

BTPを利用した開発を今から学ぶ方に向けて、「ここから始めるといいよ!」というおススメを教えて下さい。

 中尾氏(JSOL):BTPにはトライアル環境があるので、まずはそこで手を動かすのが良いと思います。SAPのLearningやCommunityから興味のあるサービスを選んで触ってみたり、定期開催のウェビナーで最新情報をキャッチしてトライアル環境で試すのがおすすめです。プログラミング経験がある方はSAP Cloud Application Programmig model(※20)(以下、CAP)から、未経験の方はローコード/ノーコードのBuild AppsやSAP Build Process Automation(※21)から始めると取り組みやすいはずです。

 館鼻氏(アクセンチュア):まずはBuild Appsでモバイルアプリを作ってみるのがおすすめです。自分で作った部品を組み立てるだけで画面を用意でき、裏側の処理も簡単に実装できます。BTPで何から始めればよいか迷っている方には最適だと思います。 

 王氏(アクセンチュア):今後はAIを用いた開発が一般的になる一方で、正しいプロンプト設計が不可欠となってくると思います。そのためには、SAP AI Coreの画面で、どのようなプロンプトなら望む回答が返ってくるのかを試行しながら学ぶと良いと思います。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):BTPを学び始めたころを思い出すと、SAPが開催しているイベントに参加し、期限を決めて実際にアプリケーションを作る、を繰り返していました。 
 人に見せる機会があると頑張れるタイプなので、イベント参加はとても有益でしたし、初心者の方にもお勧めです。 

 小林氏(デロイト トーマツ):Build Appsはゲーム感覚で楽しく学ぶことができるので、初心者の方におすすめです。私はチュートリアルと、SAP Community Blogに掲載されているSAPの田中さん境さんのブログをよく参考にして学びました。初めての方にもおすすめです。 

 山岸氏(デロイト トーマツ):私がBTPの最初の一歩として行い、とてもいい経験になったと思っているのが、CAPを用いたSAP Fiori elements(※22)ベースのアプリ開発です。CAPでデータのエンティティを定義しておけば、自動でそれを読み取って画面を生成してくれます。生成された画面を基にカスタマイズすることもできるので楽しかったです。また、「自分でかっこいい画面を作ることができた!」という経験がモチベーションにも繋がりました。 

BTP上で改善して欲しい機能はありますか? 

 谷村氏(アクセンチュア): Build Appsはローコード/ノーコードで幅広く開発できる点が大きな利点ですが、その自由度の高さゆえに、プロジェクト横断で統一感のある開発・UIを担保しづらい点に課題を感じています。個々には良いアプリでも、並べるとバラつきが目立つことがあるため、公式のデザインガイドやスタイルガイドの整備が進むとさらに改善につながると思います。 

 中村氏(JSOL):私もデザイン面での改善余地を感じています。たとえば、ラフなイメージ図やワイヤーフレームから、Build Appsがレイアウト・テーマ・コンポーネントを自動生成してくれる機能があると、初期セットアップの手間が大幅に減り、品質のばらつきも抑えられると考えます。 

 七崎氏(デロイト トーマツ):現状、SAP Generative AI HubのOrchestrationはRAGにフォーカスした設計となっており、これもとても使いやすいと感じました。一方で、複数のAIエージェントの役割分担や計画立案・実行、状態管理まで含む、より広義のオーケストレーション機能が拡充されると、ユースケースの幅がさらに広がると思います。

最後に、今後BTPに取り組む方へのメッセージを下さい。 

 中尾氏(JSOL):何から手を付ければいいのかわからない方こそ、今回のハッカソンのようなイベントに参加するのが一番だと思います。そういった方々がどんどん増えれば増えるほど、私たちもいい刺激を受け、BTPがより盛り上がる好循環が生まれると考えています。 
 
 浦上氏(アクセンチュア):BTPに限った話ではないですが、技術のアップデートがとても速い世界です。そのため、今から取り組んでも最新の技術を継続的にキャッチアップすることによって第一人者になれるチャンスがあります。そんな方が増え、BTPに今後一緒に取り組めることを楽しみにしています。 

  作間氏(デロイト トーマツ):私が初めてBTPを触ったのが約半年前、この座談会と同じ会場で行われたハンズオンイベントでした。なにか一つでも自分で実装し、実際に動くところを目にすると大きな達成感を感じることができます。ぜひBTPのイベントに参加して、まずは小さくても動くものを作ってみてください。

あとがき

 ファイナリスト3社の皆さまとの座談会を通じて、今年のハッカソンに限らず、BTPやAI活用に対する業界全体の熱量を肌で感じることができました。今後、さらなる技術の進歩とともにBTPがより一層盛り上がっていくと確信しています。  
 本記事が、BTPやAI活用にまだ詳しくない方にとって、新しい取り組みを始めるきっかけの一助となれば幸いです。(SAP 菅井) 

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SAP BTP Hackathon 2025 最優秀賞個別インタビュー

注釈

(※1) SAP Business Technology Platform:SAPの提供するプラットフォームサービスで、データとアナリティクス、人工知能、アプリケーション開発、自動化、統合の機能をまとめて提供している。 
SAP Business Technology Platform とは 
(※2)SAP Ariba:調達・購買業務とサプライヤ管理を統合したクラウドサービス。 
支出管理 | Aribaとは 
(※3) SAP Build Apps:SAPの提供するドラッグ&ドロップを中心にマウス操作でアプリケーションを開発することができるローコード・ノーコードアプリケーション開発ツール 
SAP Build Apps | 視覚的なノーコードアプリ開発機能 
(※4) Cloud Foundry Runtime:SAP BTPが提供するCloud Foundry環境上でアプリケーションを実行するための実行基盤(PaaSランタイム)。複数言語のアプリをビルド・デプロイ・スケールし、BTPの各種マネージドサービスと連携して動かせる。 
SAP BTP, Cloud Foundry Runtime 
(※5) SAP HANA Cloud:SAPの提供するデータ管理と分析のための次世代クラウドデータベースプラットフォーム。 
SAP HANA Cloud 
(※6) SAP Connectivity Serivice:BTP上のアプリから社内(オンプレミス)システムへ安全に接続するためのプロキシを提供するサービス。 
SAP BTP Connectivity | Help Portal 
(※7) SAP Business Application Studio:SAP BTP上でブラウザだけでFiori、CAP、HANAなどのSAP向けアプリを開発・テスト・デプロイできる、クラウドIDE 
What Is SAP Business Application Studio?| Help Portal 
(※8SAP Datasphere: SAPの提供するデータ管理と統合のためのクラウドベースのプラットフォーム。分散したデータの一元化を行うことができる 。
SAP Datasphere | 統合データエクスペリエンス 
(※9) Joule:SAPが提供する生成AIコパイロットで、自然言語での質問・要約・提案・自動化やアプリ開発支援を行うエンタープライズ向けAIアシスタント。 
SAPJoule コパイロット | 人工知能 
(※10) WalkMe:Web/SaaSアプリの画面上に手順ガイドやツールチップ、チェックリスト、簡易自動化を重ねて表示し、ユーザーの操作定着(デジタルアダプション)を支援するプラットフォーム 
WalkMe デジタルアダプションプラットフォーム 
(※11) RAG:大規模言語モデル(LLM)が回答を作る前に、関連する外部ドキュメントを検索してその内容をプロンプトに差し込み(根拠付け=グラウンディング)、より正確で最新性のある応答を生成する手法。 
検索拡張生成(RAG)とは 
(※12) SAP AI Core:SAPの提供するAIソリューションを構築、管理、デプロイするための基盤を提供するプラットフォーム。 
What Is SAP AI Core? | Help Portal 
(※13) SAP AI Launchpad:SAP BTP上でAI/MLおよび生成AIのユースケースを一元管理・運用・ガバナンスするための管理コンソール(UI) 
SAP AI Launchpad 
(※14) Document Grounding:生成AIの回答を企業固有の知識やデータに紐づけて信頼性を高める仕組み。 
SAP AI Core Generative AI Hubの新機能Groundingを解き明かす 
(※15) Orchestration:SAP AI Core内でAIモデルのデプロイと実行を管理・調整する機能。 
SAP AI Core Orchestration機能を解き明かす 
(※16) ベクトル化:テキストや画像などの非数値データを、コンピュータが処理できる数値の並び(ベクトル)に変換する処理。 
自然言語処理におけるベクトル化とは? 
(※17) SAP HANA vector engine:SAP HANA Cloudに組み込まれたベクトル化機能。これにより、RAG、レコメンデーション、クラスタリングなどのユースケースが可能になる。 
SAP HANA Database Vector Engine Guide 
(※18) OData (Open Data Protocol):HTTPを使用してサーバーとデータをやり取りするための手順などを定めた規格。 
SAP ODataとは?利用ケースや構成要素、得意分野をわかりやすく解説 
(※19) SAP Destination service:SAP BTPで接続先サービスのURLや認証方式などの接続情報をまとめて管理する設定。 
SAP Destination ServiceによるBTPアプリでの統合 
(※20) SAP Cloud Application Programming Model:エンタープライズアプリ向けの開発フレームワーク。 
SAP Cloud Apprication Programming Modelによる開発 | Help Portal 
(※21) SAP Build Process Automation:ローコード/ノーコードでワークフローやタスクを自動化できるソリューション。 
SAP Build Process Automation | 製品機能 
(※22) SAP Fiori elements:統一されたUIパターンを生成するためのフレームワーク。事前定義されたテンプレートを提供しており、ほとんどのアプリケーション開発で使用することができる。SAP Fioriアプリを構築するためのフロントエンドコードの量を削減することが可能。 
SAP Fiori elementsを使用したアプリの開発 | Help Potal 

 

​  本記事では末尾に用語注釈を掲載しています。文中に不明な用語がありましたら、別途ご参照ください。 はじめに  本ブログは「SAP BTP Hackathon 2025」において、一次選考を通過し、ファイナリストとなったアクセンチュア株式会社様(以下、アクセンチュア)、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様(以下、デロイト トーマツ)、株式会社JSOL様(以下、JSOL)の3社によって行われた座談会についての記事です。 「SAP BTP Hackathon2025」は、SAPジャパン株式会社が主催するパートナー/ユーザー企業を対象としたハッカソンイベントで、与えられた課題に対して、SAP Business Technology Platform ( ※1) (以下、BTP)を用い短期間で集中的に開発を行いその成果を競い合うイベントです。 今回の課題は、「SAP業務にAIでサプライズを!それ、A​​Iに任せません?」です。4年目の開催となった今年のハッカソンは、38社47チーム354名が参加されました。 2025年5月よりEnablementセッションを実施し、同年6月に1週間のハッカソン(バーチャル形式)を行いました。 数多くの応募作品の中からSAPジャパンで一次選考を行い、ファイナリスト6組を選出。7月9日(水)にSAPジャパン本社オフィスにて開催された発表イベントで最終選考を実施しました。 ファイナリストに選ばれた6社様を2組に分け、座談会という形で各チームの作品や、BTPの各機能についてお話を伺いました。 チーム/座談会参加者紹介 1.アクセンチュア株式会社様(チーム名:勝どき界隈)△ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々谷村氏、尾濱氏、王氏、舘鼻氏、浦上氏、平田氏の6名で構成されたチーム。 インタビューには下記の5名にご参加いただきました。(写真右) 後列左から順に、王氏(アソシエイト・マネジャー):同部署所属。入社後約2年間、BTPの設計開発を担当。 尾濱氏(アソシエイト・マネジャー):同部署所属。約5年SAP Ariba(※2)のSMEを担当。 谷村氏(マネジャー):本ハッカソンのチームリーダー。テクノロジー コンサルティング本部所属・SAPビジネスインテグレーショングループ所属。BTPの設計開発管理・SMEを約9年担当。 前列左から順に、 館鼻氏(スペシャリスト):同部署所属。入社後約2年間、BTPの業務に携わる。 浦上氏(スペシャリスト):同部署所属。BTP機能の設計開発・レビューを担当。入社から3年BTPの業務に携わる。 2.デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様(チーム名:Project D)△ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々宮脇氏、七崎氏、倉林氏、田原氏、山口氏、萩原氏、髙森氏、作間氏、牛間木氏、山岸氏、小林氏の11名で構成されたチーム。 インタビューには下記の5名にご参加いただきました。(写真右) 後列左から順に、 宮脇氏(ディレクター):DT&S (Digital Transformation with SAP)所属。SAPビジネスのアプリケーション開発に従事。S/4HANA、BTPのアプリ開発全般をリード。AIビジネスのリードも兼務。SAPコンサル歴は20年弱で、BTPにはリリース当初から携わる。 作間氏(コンサルタント):同部署所属。アプリケーション基盤の導入支援を担当。SAPコンサル・BTP歴は1年ほど。 山岸氏(コンサルタント):同部署所属。BTPの拡張開発やAI活用を担当。BTP歴は半年ほど。 前列左から順に、 小林氏(コンサルタント):同部署所属。アプリケーション基盤の導入支援を担当。SAPコンサル歴・BTP歴は1年ほど。 七崎氏(シニアコンサルタント):同部署所属。本ハッカソンのチームリーダー。BTPの拡張開発に従事。昨今はAI活用の支援も行っている。SAPコンサル歴は約8年で、BTP歴は約6年。 3.株式会社JSOL様(チーム名:J-Deepers) △ハッカソン当日の集合写真             △インタビューにご参加いただいた方々井戸氏、松嶋氏、中村氏、小暮氏、野坂氏、江川氏、濱田氏、中尾氏の8名で構成されたチーム。 インタビューには以下の4名にご参加いただきました。(写真右)左から順に、井戸氏(アプリケーションコンサルタント):チームリーダー。ビジネストランスフォーメーション事業本部所属。SAP S/4HANAの新規導入における、SD領域を主に担当。SAPコンサル歴は2年ほど、BTP歴は今回のハッカソンが初。 中村氏(SAP BASISエンジニア):データ&テクノロジー事業本部所属。主にBASIS領域業務に従事。SAPコンサル歴は2年、BTP歴は1年。 中尾氏(アプリケーションコンサルタント):同部署所属。SAP S/4HANAやBTPの導入を担当。SAPコンサル歴は6年、BTP歴は4年。 濱田氏(営業):エンタープライズ営業統括部所属。製薬業界向けにSAP等のソリューションの営業活動を行っている。  インタビュー内容一次選考を通過したときのお気持ちと社内の反応を教えて下さい。  谷村氏(アクセンチュア):社内の反応は、良くも悪くも「無風」でした(笑)。チームの中ではそんなムードは全くなかったのですが、周囲からは「もちろん一次選考は通るよね?」という空気もあり、結果を聞いてホッとすると同時に嬉しさが込み上げました。  濱田氏(JSOL):社内では「まずはおめでとう」という声が多かったです。一方でチーム内では、「これだけ時間をかけた手前、一次選考を通らなかったらなんと言われるだろう」という不安感が正直あったので、かなりホッとすることができました。  七崎氏(デロイト トーマツ):昨年もファイナリストになることはできましたが、優勝には届きませんでした。なので「今回優勝してこい!」という声が多かったです。一次選考の結果通知が予定として聞いていたタイミングよりも少し遅かったので、ドキドキしていたのですが、その分通知を受けた時の喜びは大きく、思わずガッツポーズをしたのを覚えています。 開発した作品の紹介/ディスカッション  今回開発した作品を各社紹介いただき、お互いに感想や質問などを行い作品についてのディスカッションを行いました。1. JSOL株式会社様 (チーム名:J-Deepers) ソリューション名:DEEPNAVI 中村氏(JSOL):昨今、関税などの多くの外部情報に対して、経営企画部門が一つずつ分析しなければならず、大きな業務負担となっています。この問題をAIを用いて解決することはできないか?、と考えたのがこのソリューションを開発したきっかけです。  自社への影響調査や対応方針の検討、経営層への報告などの業務負荷が重くのしかかっていますが、それぞれを解決する機能を本ソリューションは搭載しています。  中村氏(JSOL):このアーキテクチャでは、ユーザーが利用する画面を SAP Build Apps(※3) (以下、Build Apps)で作成し、その裏側の処理は Cloud Foundry Runtime(※4)上で動くPythonとNode.jsによって実装しています。データは SAP HANA Cloud(※5) (以下、HANA Cloud)に蓄積され、分析には SAP Analytics Cloud を活用します。  外部情報の取り込みにはNewsAPI を使用してニュースデータを収集しています。一方、日々の業務データは SAP S/4HANA とSAP Connectivity Service(※6)を用いて接続し、業務シナリオに組み込んでいます。  開発環境には SAP Business Application Studio(※7)を使い、さらに生成AIのエンジンはOpenAIの GPT-4o miniを用いて、文章生成や分析支援といった機能を実現しています。  浦上氏(アクセンチュア):ご説明ありがとうございます。今回、私たちアクセンチュアチームは多くの方に共感していただきやすいと考え、調達領域のソリューションを開発しました。御社のソリューションは経営寄りの視点でありながら、多くの共感を得られていたと感じます。このソリューションのアイデアは、どのような発想から生まれたのでしょうか?  井戸氏(JSOL):私たちは今回、AIの導入によって全社的なイノベーションを起こしたいと考えていました。そのため、あえて各業務領域に絞らない方針を採りました。その上で、最もインパクトが大きくて差別化を図れるトピックとして、経営企画を選ぶことにしました。 館鼻氏(アクセンチュア):ソリューションアーキテクチャを見ると、非常にボリュームが大きいことがわかります。今回、何人で作成したのでしょうか?また、難しかった点はありましたか?  中村氏(JSOL):作成したメンバーは4人です。また、SAP Datasphere(※8)を未だ使ったことが無かったので、初めてのソリューションをどう使いこなすのか?という点が難しかったですね。   小林氏(デロイト トーマツ):4人で作成されたとのことですが、どのような役割分担だったのでしょうか?   中村氏(JSOL):UIの部分に2人、システムの裏側の処理の部分に2人、それぞれ得意なメンバーを割り当てました。あとは、AIの力も借りながら作り上げました。ですが、今回初めて経験する部分もあったので、ハッカソンを通じて多くのことをキャッチアップすることができました。 2. アクセンチュア株式会社様 (チーム名:勝どき界隈) ソリューション名:ShowtQn 谷村氏(アクセンチュア):今回の審査では「商用化」が大きなキーワードとなっていました。そのため、数年後にJoule(※9)で実現できそうな機能は避けるよう意識しました。そのため、SAPの製品から生まれるデータに限らず、議事録などのSAP製品以外から得られる情報もデータとして取込ができる仕組みを構築しています。それを起点として、「社内で今何が起きているのか」を踏まえた回答を提供するAIチャットや、社内の状況を踏まえたうえでの最適な取引先への返信を行える機能を実装しました。  谷村氏(アクセンチュア):ソリューションアーキテクチャ図の右側が、取込を行う対象のSAPから生まれる業務データと、非SAPデータとなっています。それらのデータはHANA Cloudに蓄積されますが、その際にはデータソースごとにテーブルを分けて管理する仕組みとしています。 それによって、「○○さんと行った○○日の会議の議事録を教えて」というようなユーザーからの要求に対応できるようになっています。  井戸氏(JSOL):「情報の属人化」というのは多くの企業に共通する大きな課題だと思います。そのため、ShowtQnが高い精度で実現されれば、是非弊社でも活用したいですね。ところで、MicrosoftのCopilotと似ている印象も受けましたが、どのような点で差別化ができると考えていますか?  王氏(アクセンチュア):ShotQnの強みは、音声や画像といった非構造化データを取り込める点にあると考えています。完成した作品を試した際には、実際に弊社で行われたミーティングの議事録をHANA Cloudに取り込むことができ、その有効性を確認できました。  作間氏(デロイト トーマツ):私自身、正直ハッカソン期間で「もっと時間があれば!」と感じました。ですが、御社は「ShowtQn」というキャラクターの作りこみや、スマートフォンからのアクセスができる点など、売り物として完成されており、最後まで作りこまれている印象を受けました。どのようなタイムラインで開発を進めたのでしょうか?  浦上氏(アクセンチュア):ハッカソンのお題が発表される1か月ほど前から、「どんなことをしたいか」というコンセプトは話し合っていました。その上で、役割ごとの細かいスケジュール管理を行ったのが良かったと思っています。ですが、やはり実装期間の1週間は追い込んでやりました(笑)。  七崎氏(デロイト トーマツ):音声や画像を取り込んで生成AIによる分析を行う、という流れは、精度が求められると思います。その点で開発はとても大変だったと思うのですが、感想を聞きたいです。  館鼻氏(アクセンチュア):仰る通り大変でした。そのため、精度の高い出力結果を得られる技術選定に時間を掛けるようにしていました。 3. デロイト トーマツ コンサルティング合同会社様 (チーム名:Project D) ソリューション名:AI-Driven Orchestra for Procurement 七崎氏(デロイト トーマツ):調達業務における課題として、(1) ベテランと若手のスキル格差、(2) ステークホルダーの多様化に伴う調整の複雑化、そして (3) サプライヤリスク管理に要する工数の増大、という3つが顕在化しています。これらを解決するために、2つのアプリケーションを開発しました。  まず、”サプライヤ評価の自動提案アプリケーション”では、AIが評価に必要なデータ収集から評価の実施までを一貫して担います。属人化が起こりやすい評価プロセスを平準化することが可能となっています。  次に、”価格交渉の自動提案アプリケーション”では、従来ベテランバイヤーのノウハウに依存しがちな交渉業務に対し、過去の取引データや事前に定義したルールを元にしてAIが交渉方針や提示条件を自動で導出します。一方で、人と人との関係性に根ざす判断や最終的な合意形成といった領域は引き続き人が担い、分析・準備・条件シミュレーションなど従来人手で行っていた作業は極力AIに移管する設計としています。  七崎氏(デロイト トーマツ):ユーザーが実際に操作する画面は3つです。先ほどの2つのアプリケーションに加え、各AIエージェントが保有するスキルを業務部門の担当者が視覚的にメンテナンスできるエージェントスキル管理画面を用意しました。これにより専門知識がなくてもスキルの追加・更新・有効化が行えるため、現場主導で精度向上と改善サイクルを回せます。  調達の価格交渉はSAP Aribaの標準画面上に組み込まれており、ボタンひとつでAIによる交渉支援を起動できる設計です。この導線や操作ガイダンスにはDAPツールであるWalkMe(※10)を活用し、ユーザーが迷わず使いこなせる体験を実現しています。  RAG(※11)はSAP AI Core(※12)とSAP AI Launchpad(※13)上に構築し、Enablementセッションで学んだDocument Grounding(※14)の手法も取り入れました。これにより、社内外のドキュメントに基づいた応答生成と、説明可能性の高い提案を両立しています。   井戸氏(JSOL):御社のソリューションはAIエージェント同士のコラボレーションが特徴的だと感じました。その構成にした理由を教えて欲しいです。  七崎氏(デロイト トーマツ):はい、仰る通りA2A(Agent to Agent)の世界観を持って今回開発を行いました。単一のAIエージェントで全てを完結しようとすると、多岐にわたるタスク指示や膨大なスキル定義が必要になり、精度の安定性や保守性の確保が難しくなります。そこで、役割ごとにエージェントを分担し、相互連携は疎結合なインターフェースで行うマルチエージェント構成を採用しました。これにより、将来的に要件が増えた際にも新たなエージェントを追加するだけで柔軟に拡張でき、既存機能への影響も最小化できます。   尾濱氏(アクセンチュア):価格交渉業務において、最終的な合意形成は人が担う設計にされていますが、今後も人が行うべき業務 とAIが担うべき業務 の線引きはどのように判断されたのでしょうか?  七崎氏(デロイト トーマツ):事実やデータに基づく情報収集・整理・分析、そして選択肢の生成はAIに任せるべきだと考えています。一方で、様々なコミュニケーションを通じて人と人がつながり、ビジネスが生まれる場面は少なくありません。だからこそ、人は関係構築や合意形成といった価値創出に集中し、その前提となる作業はできる限りAIが肩代わりする。この役割分担が最も効果的だと考えています。   中村氏(JSOL):御社にはAI技術をお客様に紹介する専門施設があると思います。そこでも今回の作品を展示していらっしゃるのでしょうか?  宮脇氏(デロイト トーマツ):はい、”Deloitte Tohmatsu AI Experience Center”という共創型AI体験施設を構えております。今回開発したソリューションに限らず、様々な技術を紹介しておりまして、とてもよい評判を頂いております。その中でも、マルチエージェントによる業務効率化、というトピックは非常に高い期待値を頂いています。 今回のハッカソンを通して、特に気に入ったBTP機能があれば教えてください。  山岸氏(デロイト トーマツ):今回のハッカソンではAIの実装を担当しました。中でも Generative AI Hub の Document Grounding と Orchestration(※15) の機能が非常に便利でした。データを容易にベクトル化して格納でき、格納状況をUI上で確認できるため、AI実装が初めての立場でも扱いやすかったです。実はハッカソン後、別プロジェクトで Generative AI Hub を使わずにRAGを構築したのですが、その際はデータベースの設定やベクトル化(※16)の用意など準備作業に大きな手間がかかりました。一方で Generative AI Hub ではその準備があらかじめ整っているため、実装に集中できる点が大きな利点です。AI実装の経験がまだない方にとっても、とても有用な機能だと感じています。   中尾氏(JSOL):SAP HANA Cloud Vector Engine(※17)がとても便利だと思いました。自分の必要な情報を意味ベースで検索でき、ハルシネーションの抑制にもつながるため、使い勝手が良かったです。また、Build Appsも非常に使いやすかったです。直感的にUIを開発することができる点が便利でした。  中村氏(JSOL):実は、弊社のインターン生にもBuild Appsを使わせてみたんです。全くプログラミング経験が無い学生でしたがHANA Cloudにデータを格納し、POST/GETまで自力でこなしていて驚きました。また、Microsoft Azureに格納したデータを用いてグラフを作成することもしていました。初心者にとっても扱いやすい、いいソリューションだと感じました。  浦上氏(アクセンチュア):私はハッカソンに2年前にも出場していて、その際にもBuild Appsを使用したのですが、どんどん進化していると感じました。 OData(※18)のエンティティがあり、SAP Destination service(※19)で接続していれば、作成、編集、削除といった画面をすぐに作成することができる機能があります。ODataさえあればそのような画面をすぐ作れるという点が、初心者の方にとって非常に使いやすいと感じました。 BTPを利用した開発を今から学ぶ方に向けて、「ここから始めるといいよ!」というおススメを教えて下さい。 中尾氏(JSOL):BTPにはトライアル環境があるので、まずはそこで手を動かすのが良いと思います。SAPのLearningやCommunityから興味のあるサービスを選んで触ってみたり、定期開催のウェビナーで最新情報をキャッチしてトライアル環境で試すのがおすすめです。プログラミング経験がある方はSAP Cloud Application Programmig model(※20)(以下、CAP)から、未経験の方はローコード/ノーコードのBuild AppsやSAP Build Process Automation(※21)から始めると取り組みやすいはずです。 館鼻氏(アクセンチュア):まずはBuild Appsでモバイルアプリを作ってみるのがおすすめです。自分で作った部品を組み立てるだけで画面を用意でき、裏側の処理も簡単に実装できます。BTPで何から始めればよいか迷っている方には最適だと思います。  王氏(アクセンチュア):今後はAIを用いた開発が一般的になる一方で、正しいプロンプト設計が不可欠となってくると思います。そのためには、SAP AI Coreの画面で、どのようなプロンプトなら望む回答が返ってくるのかを試行しながら学ぶと良いと思います。  七崎氏(デロイト トーマツ):BTPを学び始めたころを思い出すと、SAPが開催しているイベントに参加し、期限を決めて実際にアプリケーションを作る、を繰り返していました。  人に見せる機会があると頑張れるタイプなので、イベント参加はとても有益でしたし、初心者の方にもお勧めです。  小林氏(デロイト トーマツ):Build Appsはゲーム感覚で楽しく学ぶことができるので、初心者の方におすすめです。私はチュートリアルと、SAP Community Blogに掲載されているSAPの田中さん・境さんのブログをよく参考にして学びました。初めての方にもおすすめです。  山岸氏(デロイト トーマツ):私がBTPの最初の一歩として行い、とてもいい経験になったと思っているのが、CAPを用いたSAP Fiori elements(※22)ベースのアプリ開発です。CAPでデータのエンティティを定義しておけば、自動でそれを読み取って画面を生成してくれます。生成された画面を基にカスタマイズすることもできるので楽しかったです。また、「自分でかっこいい画面を作ることができた!」という経験がモチベーションにも繋がりました。 BTP上で改善して欲しい機能はありますか?  谷村氏(アクセンチュア): Build Appsはローコード/ノーコードで幅広く開発できる点が大きな利点ですが、その自由度の高さゆえに、プロジェクト横断で統一感のある開発・UIを担保しづらい点に課題を感じています。個々には良いアプリでも、並べるとバラつきが目立つことがあるため、公式のデザインガイドやスタイルガイドの整備が進むとさらに改善につながると思います。  中村氏(JSOL):私もデザイン面での改善余地を感じています。たとえば、ラフなイメージ図やワイヤーフレームから、Build Appsがレイアウト・テーマ・コンポーネントを自動生成してくれる機能があると、初期セットアップの手間が大幅に減り、品質のばらつきも抑えられると考えます。  七崎氏(デロイト トーマツ):現状、SAP Generative AI HubのOrchestrationはRAGにフォーカスした設計となっており、これもとても使いやすいと感じました。一方で、複数のAIエージェントの役割分担や計画立案・実行、状態管理まで含む、より広義のオーケストレーション機能が拡充されると、ユースケースの幅がさらに広がると思います。最後に、今後BTPに取り組む方へのメッセージを下さい。  中尾氏(JSOL):何から手を付ければいいのかわからない方こそ、今回のハッカソンのようなイベントに参加するのが一番だと思います。そういった方々がどんどん増えれば増えるほど、私たちもいい刺激を受け、BTPがより盛り上がる好循環が生まれると考えています。   浦上氏(アクセンチュア):BTPに限った話ではないですが、技術のアップデートがとても速い世界です。そのため、今から取り組んでも最新の技術を継続的にキャッチアップすることによって第一人者になれるチャンスがあります。そんな方が増え、BTPに今後一緒に取り組めることを楽しみにしています。   作間氏(デロイト トーマツ):私が初めてBTPを触ったのが約半年前、この座談会と同じ会場で行われたハンズオンイベントでした。なにか一つでも自分で実装し、実際に動くところを目にすると大きな達成感を感じることができます。ぜひBTPのイベントに参加して、まずは小さくても動くものを作ってみてください。あとがき ファイナリスト3社の皆さまとの座談会を通じて、今年のハッカソンに限らず、BTPやAI活用に対する業界全体の熱量を肌で感じることができました。今後、さらなる技術の進歩とともにBTPがより一層盛り上がっていくと確信しています。   本記事が、BTPやAI活用にまだ詳しくない方にとって、新しい取り組みを始めるきっかけの一助となれば幸いです。(SAP 菅井) 関連記事 SAP BTP Hackathon 2025 最優秀賞個別インタビュー注釈(※1) SAP Business Technology Platform:SAPの提供するプラットフォームサービスで、データとアナリティクス、人工知能、アプリケーション開発、自動化、統合の機能をまとめて提供している。 SAP Business Technology Platform とは (※2)SAP Ariba:調達・購買業務とサプライヤ管理を統合したクラウドサービス。 支出管理 | Aribaとは (※3) SAP Build Apps:SAPの提供するドラッグ&ドロップを中心にマウス操作でアプリケーションを開発することができるローコード・ノーコードアプリケーション開発ツール。 SAP Build Apps | 視覚的なノーコードアプリ開発機能 (※4) Cloud Foundry Runtime:SAP BTPが提供するCloud Foundry環境上でアプリケーションを実行するための実行基盤(PaaSランタイム)。複数言語のアプリをビルド・デプロイ・スケールし、BTPの各種マネージドサービスと連携して動かせる。 SAP BTP, Cloud Foundry Runtime (※5) SAP HANA Cloud:SAPの提供するデータ管理と分析のための次世代クラウドデータベースプラットフォーム。 SAP HANA Cloud (※6) SAP Connectivity Serivice:BTP上のアプリから社内(オンプレミス)システムへ安全に接続するためのプロキシを提供するサービス。 SAP BTP Connectivity | Help Portal (※7) SAP Business Application Studio:SAP BTP上でブラウザだけでFiori、CAP、HANAなどのSAP向けアプリを開発・テスト・デプロイできる、クラウドIDE。 What Is SAP Business Application Studio?| Help Portal (※8)SAP Datasphere: SAPの提供するデータ管理と統合のためのクラウドベースのプラットフォーム。分散したデータの一元化を行うことができる 。SAP Datasphere | 統合データエクスペリエンス (※9) Joule:SAPが提供する生成AIコパイロットで、自然言語での質問・要約・提案・自動化やアプリ開発支援を行うエンタープライズ向けAIアシスタント。 SAPのJoule コパイロット | 人工知能 (※10) WalkMe:Web/SaaSアプリの画面上に手順ガイドやツールチップ、チェックリスト、簡易自動化を重ねて表示し、ユーザーの操作定着(デジタルアダプション)を支援するプラットフォーム。 WalkMe デジタルアダプションプラットフォーム (※11) RAG:大規模言語モデル(LLM)が回答を作る前に、関連する外部ドキュメントを検索してその内容をプロンプトに差し込み(根拠付け=グラウンディング)、より正確で最新性のある応答を生成する手法。 検索拡張生成(RAG)とは (※12) SAP AI Core:SAPの提供するAIソリューションを構築、管理、デプロイするための基盤を提供するプラットフォーム。 What Is SAP AI Core? | Help Portal (※13) SAP AI Launchpad:SAP BTP上でAI/MLおよび生成AIのユースケースを一元管理・運用・ガバナンスするための管理コンソール(UI)。 SAP AI Launchpad (※14) Document Grounding:生成AIの回答を企業固有の知識やデータに紐づけて信頼性を高める仕組み。 SAP AI Core – Generative AI Hubの新機能Groundingを解き明かす (※15) Orchestration:SAP AI Core内でAIモデルのデプロイと実行を管理・調整する機能。 SAP AI Core Orchestration機能を解き明かす (※16) ベクトル化:テキストや画像などの非数値データを、コンピュータが処理できる数値の並び(ベクトル)に変換する処理。 自然言語処理におけるベクトル化とは? (※17) SAP HANA vector engine:SAP HANA Cloudに組み込まれたベクトル化機能。これにより、RAG、レコメンデーション、クラスタリングなどのユースケースが可能になる。 SAP HANA Database Vector Engine Guide (※18) OData (Open Data Protocol):HTTPを使用してサーバーとデータをやり取りするための手順などを定めた規格。 SAP ODataとは?利用ケースや構成要素、得意分野をわかりやすく解説 (※19) SAP Destination service:SAP BTPで接続先サービスのURLや認証方式などの接続情報をまとめて管理する設定。 SAP Destination ServiceによるBTPアプリでの統合 (※20) SAP Cloud Application Programming Model:エンタープライズアプリ向けの開発フレームワーク。 SAP Cloud Apprication Programming Modelによる開発 | Help Portal (※21) SAP Build Process Automation:ローコード/ノーコードでワークフローやタスクを自動化できるソリューション。 SAP Build Process Automation | 製品機能 (※22) SAP Fiori elements:統一されたUIパターンを生成するためのフレームワーク。事前定義されたテンプレートを提供しており、ほとんどのアプリケーション開発で使用することができる。SAP Fioriアプリを構築するためのフロントエンドコードの量を削減することが可能。 SAP Fiori elementsを使用したアプリの開発 | Help Potal    Read More Technology Blog Posts by SAP articles 

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